ドラマ「FACE MAKER」に思う

かとう整形外科クリニック 加藤信岳 2010年9月23日

「整形外科」と「美容外科」はまったく異なる診療科です

 「整形外科医です」と自己紹介すると、一般の方から「私の顔も整形してくださ~い」などと言われることがあります。周囲の同僚医師に聞いてみても、同様の経験が「あるある」の大合唱。決して珍しいことではなく、「あぁ、またか」と思うこともしばしばです。この場合、相手が「整形外科は美容手術をやってくれるところ」と誤認している事は容易に想像がつきます。そこで「整形外科は首から下の部分の主に運動器を扱う診療科なので、顔面の美容手術などは行わないんですよ」と毎度説明をする訳ですが、そんな時に整形外科の診療内容はあまり一般には知られていないんだなぁと感じます。

「整形」という言葉はよく「美容手術」と混同されます

 最近は「整形する」と「美容手術をうける」が同じ意味に使われる風潮があるようです。「プチ整形」や「整形美人」等、同様の認識から生まれた言葉も既に市民権を得ています。しかし、この整形という言葉に外科という言葉がくっついて「整形外科」となった途端、まるで意味が違ってくることが広く認知されていない点に現在の整形外科の悲劇?があるのかもしれません。日本整形外科学会が行ったアンケートでは、整形外科の守備範囲の正解率は30%程度でした。昭和30年代と平成でこの結果に差はなく、残念ながら一般の方への整形外科の認知度はいまだにその程度のようです。

診療科名は法律で定められています

 日本で医療機関が標榜可能な診療科名は、紛らわしいものを排除するために医療法という法律で規定されています。顔面の美容手術といった領域を扱うのは「美容外科」もしくは「形成外科」です。分野外の「整形外科」は該当しません。また、法的に修飾語の重複は認められないので美容形成外科や美容整形外科という診療科名もあり得ません。

「美容整形外科医」などという言葉はありません

 読売テレビ、日本テレビ系で2010年10月から「FACE MAKER」という医療サスペンスドラマが始まります。“顔が変われば、人生も変わる”というキャッチフレーズの「美容外科医」のお話のようです。イケメン俳優が主演することもあり、放映前からあちこちで話題になっていてなかなか面白そうです。でもちょっと気になって調べたら案の定、当初の番組宣伝での主人公の役柄は「天才整形外科医」でした。読売新聞、報知新聞のみならず毎日新聞などでも、この役柄名がそのまま変更されずに使われています。我々整形外科医の指摘を受けて後に番組上では「天才美容整形外科医」と表現が変更されましたが、もし実際に「美容整形外科」というあり得ない診療科名を標榜する医師がいたら医療法違反です。「美容手術」=「整形」という図式を崩さない思惑が見え隠れしますが、少し調べれば解ることなのであまりに安易に番組が制作されている印象は否めません。連日医療の問題が報道される昨今、医療ドラマの制作サイドにはもっと慎重であって欲しいものです。視聴者への影響力が大きいテレビ局など報道機関には特にコンプライアンスが求められるのは言うまでもありません。

我々は「整形外科医」であって「美容外科医」ではありません

 テレビドラマで扱われることで、美容外科との誤認がさらに広がる事は危惧されます。しかし、話題になることで整形外科の診療内容が正しく認知される良い機会になってくれたらいいなと思います。