ロコモの治療その2

ロコトレその2 :ロコモーショントレーニングLocomotion Training

目的
 転倒予防、骨折予防などのために行います。

方法
1)ロコトレその他
 自宅でも行えます。日々継続して運動療法を実施することが大切です。
 a)ロコモン体操;「股関節の体操」(スクワット)、「骨力トレーニング」、「いすに腰掛けて行う体操」(大腿四頭筋訓練)の3種があります。
  ロコモン体操とは:運動器locomotive organsをもじったもの(別府諸兄ら2009年)
  股関節の体操;スクワット:既出;上記のロコトレ参照
 b)タオルギャザーやバランスボード
 c)物理療法
 d)転倒防止について:転倒防止教室
 e)その他のリハビリ:多種多様あります。ご高齢者の状態に合わせて行ってください。
2)整形外科専門医によるメディカルチェック
 「整形外科専門医」による「メディカルチェック」により、高齢者の転倒・骨折の「原因をチェック」してから、無理なく楽しい複合的な運動プログラムを行いましょう。また施行後も「効果判定」のために、定期的に、お近くの「整形外科専門医」のチェックを受けてください。

骨力トレーニング

骨粗鬆症予防となる。ご高齢の方は机や平行棒内でつかまりながら行うとよいでしょう。

ロコモン体操:別府諸兄2009年

3)椅子に腰掛けて行う体操
 (大腿四頭筋訓練)以下の図のように膝の間にやわらかいボールをはさんで行うのもよい。変形性膝関節症、O脚予防です。あおむけに寝て交互にゆっくり足を上げてもよいでしょう。

ロコモン体操:別府諸兄2009年

タオルギャザー
 片足づつ、左右それぞれ3回ずつ×2セット、セット間の休息60秒程度
1)椅子に座り、床にタオルを敷きます
2)タオルを、足の指だけでタオルを手前にたぐり寄せます
3)ある程度、タオルをたぐり寄せたら、足を交代します。また両足で行ってもかまいません。
動画;YouTube:タオルギャザー

バランスボード
 ご高齢の方でバランス感覚が低下していれば、とっさの危険回避や転倒防止など俊敏な動作ができません。日頃からバランス感覚の向上と筋力増強を図る。
 ご高齢の方は、両足ではなく、片足で行ったほうが良いと思います。転倒に注意してください。手すりや椅子などにつかまりながら行う。片足をボードに乗せ、ボードの端が床に着かないよう水平を保つ。あるいはボードの端を床に着けたまま旋回させるのも足首の関節を柔らかくするのに効果があります。
動画;YouTube:バランスボード

ロコモと物理療法(physical agents)
 ロコモは、いわば廃用症候群であり、予防するためには、まず「運動療法」を実施し、必要に応じて「物理療法」を加える。機能の回復のためには、機械的刺激(メカニカルストレス)などの物理的刺激を加える治療法が合理的です。

運動療法と物理療法の長所の比較
運動療法
1)機器がなくても(施設に行かなくても)可能
2)費用が安い
物理療法
1)刺激の部位と強度をコントロールしやすい
2)ハイリスクや動機に問題がある患者にも実施可能
3)転倒などのリスクを回避できる
川村次郎2007

転倒予防の目指すもの
 1)転倒の回数を減らす
 2)骨折を減らす
 3)寝たきり・要介護を減らす
 4)健康・幸福・自己実現
健やかで実りある心豊かな日々。

 ご高齢の方の「転倒予防」の目指すものは、単に、転倒の数や骨折の数を減らすのではなく、転倒・骨折を原因として起こる、「寝たきり」や、「要介護状態」を低減することです。そして、その過程の中で培われた、能力と自信と希望により、行きたいところに、自分の力で移動をして、やりたいことと、やるべきことができるようになるのが、最終目標です。つまり、転倒予防の取り組みにより、一人ひとりのご高齢の方の、「健康」と「幸福」と「自己実現」をもたらし、「健やかで実りある豊かな日々」が営まれ、その人にとっての「人生の転倒予防教室」に結びつくことを願っています。(武藤芳照2007年)

転倒
 「転倒した結果、予後が悪くなった」とみなすよりは、「転倒するほど、身体の状態が悪くなっていた」、「身体の状態が悪くなった結果、転倒する」と、とらえるべきとされています。

転倒予防の介入とその効果
これまでに報告されている転倒予防の介入方法には、
 a)運動介入(筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、柔軟運動など)
 b)運動以外の介入(服薬指導、食事指導、環境整備、行動変容のための教育など)
 c)多角的介入(運動・運動以外の介入を含む、身体・知的機能、環境、医学的評価に基づいた対策)
などがあげられています。
 研究では、運動介入の中でもバランス訓練および複合的な運動でとくに高い転倒予防効果が得られることが報告されている。転倒は複合的な要素が相互に影響を及ぼしあった結果、発生することを考えると、やはり身体機能全体を改善・向上するような総合的な介入が求められる。(武藤芳照2007年)

転倒・骨折の要因
 1.骨密度の減少(骨折リスク:骨量・骨代謝マーカー)

 2.転倒頻度の上昇(転倒リスク)
   内的要因(高齢者の身体の状態に直接影響を及ぼす要因)
   a)属性
   高齢、女性、無配偶者、転倒の既往、閉じこもり、車椅子の使用など
   b)身体機能の低下(加齢・運動不足)
   筋力の低下、歩行障害、白内障、老眼、聴力の低下、バランス障害など
   c)身体的・精神的疾患の合併
   循環器系:脳血管疾患・後遺症、虚血性心疾患、不整脈、高血圧、起立性低血圧など
   脳神経系:パーキンソン症候群、認知障害、うつ病、小脳障害、末梢神経障害など
   筋骨格・運動器系:関節疾患、強い円背、骨折など
   d)薬剤(内服薬)の服用
   外的要因(環境・物理的な要因) 天候:降雨、積雪、凍結
   住まい・建物・道路:段差、障害物(整理整頓されていない部屋)、滑る床、絨毯(ほころび)、階段や浴室に手すりがない、不十分な照明など
   物理的な側面:不適切な履き物・歩行補助具、眼鏡の不適合など
   周囲の状況:なれない環境、介護、看護者数の不足など
 3.転び方の質が低下
  転びそうになったときに手をつけない、とっさの一歩がでない、体勢を整えられないなど。 (武藤、朴ら、2006)

運動器不安定症のリハビリ例(藤野2009)
 下のような、多種多様な訓練が可能です。体力に合わせて組み合わせて行うことになります。効果の評価もきめ細かに行いましょう。励みになります。