人命支援と人道支援
社団医療法人 鶯宿温泉病院 久保谷康夫
熱しやすく冷めやすい国民性は日本人の特性であろうか。一時期は明けても暮れてもイラク問題だったが、年金騒動でイラク人質問題も記億が薄れがちだ。なにはともあれイラクの人質も無事開放されて国民等しく安堵したことだろう。
人質開放に関しては「人の命は地球より重い」と言われた方がおられたが、全くその通りだとは思う。しかし、地球の重さはその専門家に任せるとして、人命の重さはどれ位なのだろうか。日頃、人命を預かる我々は、人命の重さを量れる体重計は無いのだろうかとふと連想させられる。
人命支援費用といえば、その国の医療費がわかりやすい。国民の一人当たりGDP対比医療費(医療力)を出してみると、国際比較が容易だ。これだけで人命支援を推測するのはおこがましいが、少なくともその国の人命への配慮度は解かるだろう。人命支援意気込み体重計とでも言えよう。
人命は地球より重いとは言っても、ダイヤ算出国のような体重が重そうな国でも一人当たり医療費は軽いようだ。
国力(購買力平価換算GDP)が国民力(国民一人当たりGDP)を表すが、その国民力が医療力に影響すると思われ、人命支援計として人命の重さを物語るメモリとなる。残念だが国力のない国家は医療力の少なさも致し方ないとされており、人命も軽んじられることは、寂しい限りである。
さて、人道支援体制やそれに要する費用も、人命支援費同様に考えるのが判りやすいだろう。支援もその国の国力・国民力に応じてなされることは当然ではあるが、イラクへの主要各国の復興支援事業が既に始まっている。
そこで、試みに各国の人命支援費と人道支援費を体重計を用いて量ってみた。計測値単価を同じにすれば、全く違う体重計ということにはならないだろうから、ある程度の相関が見られるであろう。
しかし、計測結果(下表)をよく観察して欲しい。日本は、国民力からすると、人道支援費の「肥満型」が際立っているだけに、人命支援費はとても「痩せ型」なようだ。日本国には一刻も早い適切な診断と治療が必要であり、人命支援には国力に応じた適切な財政出動が望まれると思うのは、人命を預かる我々医療者だけであろうか。
表 ※単位:国際米ドル
国 | 人命支援費(*1) | 人道支援費(*2) | 「国民力」(*3) |
アメリカ | 4,909 | 65.3 | 33,803 |
カナダ | 2,775 | 0.0 | 29,214 |
ドイツ | 2,693 | 1.0 | 24,936 |
豪州 | 2,463 | 0.0 | 26,408 |
フランス | 2,349 | 1.0 | 24,474 |
オランダ | 2,283 | 1.0 | 25,651 |
日本 | 2,113 | 39.4 | 26,405 |
イタリア | 2,029 | 1.0 | 24,150 |
イギリス | 1,823 | 8.6 | 23,984 |
スペイン | 1,445 | 7.5 | 19,268 |
韓国 | 970 | 4.2 | 16,157 |
*2 人道支援費=イラク復興費他(億ドル)
*3 「国民力」=GDP÷人口
参考資料
1)人命支援費
:ばんぶう(日本医療企画);2003年4月;岩田健太郎(リンク切れ 2021.7.10)
2)人道支援費
:イラク復興費(日経新聞:単位米ドル)
3)「国民力」
:http://web.hhs.se/personal/suzuki/index.html(リンク切れ 2021.7.10)
<経済>国内総生産(GDP);購買力平価換算
;IMF (2003) World Economic Outlook