頸(頸椎)
頚椎(けいつい),頚髄(けいずい),頚部(けいぶ)について
首が悪いときの症状を理解するために
a)頚髄が押さえられた時の症状
b)神経根が押さえられた時の症状
ケガである
頚椎損傷 頚髄損傷
いわゆる「むち打ち」
ケガでない
手足の症状あり
症状による病名:頚髄症と頚椎症性神経根症
症状を発生させる原因による病名:頚椎椎間板ヘルニア,頚椎後縦靱帯骨化症,頚椎症
詳しい病名
手足の症状なし
いわゆる「ねちがえ」急性頚部痛
肩こり
頚椎腫瘍,頚髄腫瘍
治療法
日常生活での注意
頚椎(けいつい),頚髄(けいずい),頚部(けいぶ)について
頭と胴体の間の部位を,日常用語では首(くび)といいますが,医学用語では頚または頸を使います.
首の骨のことを頚椎といいます.
首の骨の中には脊髄という神経があり,首の部分の脊髄を特に頚髄と言います.
また骨の周囲には筋肉,血管,神経などがあります.これらを総称して,頚部といいます.
首が悪いときの症状を理解するために
首が悪いときに出てくる症状を理解するために,首の骨の中を通っている神経のことを理解する必要があります.
首の骨(=頚椎)の中には,脳から連続しているa)頚髄(けいずい)という神経と,その頚髄からでてくるb)神経根(しんけいこん)という2つの神経があります.
首の病気で,これらのa)頚髄,b)神経根が押さえられると,そのための症状が出ます.これらを神経症状といいます.
また,首が悪い場合イ)上肢,ロ)下肢,ハ)膀胱・直腸の3部位で症状が出る可能性があります.
一般的に神経は,知覚と運動に関係します.知覚が悪くなると知覚障害が出るわけですが,しびれる,痛い,触られたときに鈍く感じるなどの症状が出てきます.運動が悪くなると運動障害が出るわけですが,力が入りにくい,動かしにくいなどの症状が出ます.従いまして,実際の神経の症状としては,知覚の障害と運動の障害が混合して出てきます.
a)頚髄が押さえられた時の症状
イ)上肢の症状
手の痛み,しびれ,握力の低下.それ以外に,箸やペンが使いにくい,ボタンをとめにくい,コインをつまみにくいなど,手指の器用さが失われるという症状(巧緻運動障害:こうちうんどうしょうがい)が出ます.
ロ)下肢の症状
悪いのは首であっても,頚髄が押さえられると,足の症状が出ます.足がしびれる,足がつっぱって歩きづらい,足がもつれる,階段を降りるときに転びそうになるなどです.
ハ)膀胱・直腸
おしっこが出にくい,出ない,便が出にくい等の症状がでます.おしっこが出ない場合は,緊急手術を要することがあります.
b)神経根が押さえられた時の症状
この場合イ)上肢の症状のみが出現します.
多くは片方の肩から腕,手,指にかけての痛み,しびれを訴えます.痛みは軽いものから,夜も寝られないほどのものまでさまざまです.しびれはビリビリする,ジンジンするなどいろんな表現があります.また,触られた場合,反対側と感じ方がちがうという感覚の障害が起こることもあります.
頚椎とは首の骨のことで,頚髄とは首の骨の中にあり脳から連続してくる神経のことです.頚椎のケガだけで,頚髄のケガのないこともありますし,頚椎のケガと頚髄のケガが同時に起こることもあります.スポーツ,事故などで首に負担がかかった場合に発症します.麻痺(手足が動かない,感覚がない)などの場合は,首を動かさず,ただちに救急車を呼んで,病院での診察が必要です.もともと年齢的変化で頚髄が圧迫されやすい人は,ちょっと転んだだけでも,また頚椎の骨折がなくても,麻痺が起こることがあります
交通事故による後方からの衝突などの場合,頚部痛などが出現することを「むち打ち」と表現されますが,現在では「むち打ち」と言う言葉は使用せずに「外傷性頚部症候群」「頚椎捻挫」と呼ばれることが多くなっています.頚椎の骨折,頚髄など神経の損傷がある場合は,頚椎損傷,頚髄損傷 をご参考ください. いわゆる「むち打ち」 の場合,レントゲンやMRI などの検査が行われますが,レントゲン所見,MRI 所見(椎間板後方突出,椎間板変性所見)の多くが,加齢的変化と考えるのが妥当と考えられています.頚椎捻挫の病態解明にいたる画像所見は未だ明らかとは言えません. 治療として急性期の治療原則は安静です.しかし,頚椎固定具が必要であるか否かについては一致した見解が得られていません.疼痛のための筋拘縮や廃用性傷害の予防を目的とした運動療法は効果のある治療法です.急性期の頚部痛に対しては消炎鎮痛剤や筋弛緩剤を投薬することが多く.頚部の筋の緊張を軽減させる,また頚椎周辺の血流改善を目的として頚椎牽引,頚肩周辺の自動可動域訓練,ホットパックなどによる温熱療法が行われることが多いのが現状です.著明な疼痛に対してはブロック療法が行われます.
ケガでない
手足の症状あり
首が悪いときの症状を理解するためにで書いたように,a)頚髄が押さえられた時の症状が出てきた場合,この病気のことを頚髄症と言います.また,b)神経根が押さえられた時の症状が出てきた場合は,この病気のことを頚椎症性神経根症と言います.なお,その両方が合わさっている場合もあります.
首の骨(=頚椎)は全部で7つありますが,その各々の骨の間に椎間板が存在します.その椎間板が正常の位置から飛び出して頚髄や神経根を圧迫し症状を出した場合,頚椎椎間板ヘルニア又は頚部椎間板ヘルニアと言います.
頚椎の後ろの部分には,後縦靱帯という靱帯があります.この靱帯が,何らかの原因で骨化(=骨に変化する)ことがあり,この骨化した靱帯で頚髄を圧迫し,症状を出すことがあります.この場合,頚椎後縦靱帯骨化症と言います.
頚椎は年齢を経ると椎間板が少し飛び出してきますが,その状態が続くと骨がとげの様に伸び,このとげ(=骨棘:こっきょく)によって頚髄や神経根を圧迫することが起こります.この場合の病気を頚椎症と言います.また変形性頚椎症,変形性脊椎症などと言われることもあります
ですので,詳しい病名としては
・頚椎椎間板ヘルニアによる頚椎症性神経根症
・頚椎後縦靱帯骨化症による頚髄症
・頚椎症による頚髄症(頚椎症性脊髄症などと言われる)
などという表現になります.
起床直後に限らず,急に首が痛くなり,首を動かすと痛く,横を向きにくい,後ろを振り向けない,上を向けないなどの症状がでてきます.その際,手足の症状(手足のしびれ,手足が動かしにくい)がないかは注意してください.症状がある場合は手足の症状ありをご参考ください.手足の症状がなく,首の痛みだけの場合,多くは数週間で自然に回復します.痛みがなくなれば自然に首の動きは良くなりますから,無理に動かそうとせず,消炎鎮痛剤を含んだ湿布を使用するか,また痛みが強い場合は鎮痛消炎剤を使いましょう.よく,温めた方が良いという人がいます.それで症状が軽快することもありますが,逆に痛みが強くなることもありますので一概に温めればよいというものでもありません.経過観察の中で,症状が改善しない,痛みが強くなっていく場合には,整形外科を受診ください.また,内科的疾患,耳鼻科的疾患などによることもあるので,注意が必要です.年齢が原因という話もありますが,小さい子どもさんでも起こることも多いです.
いわゆる肩こりに関しては,さまざまな研究,検討を行なわれてきているものの,十分解明できていません.ですので,いわゆる対症療法や,予防などが基本となります.しかしながら,首,肩の病気など整形外科的病気,心臓,肺など内科的な病気,副鼻腔炎など耳鼻科的病気など,さまざまな病気が原因で発生する肩こりもありますので,単に肩こりと済ませるのではなく,まずは医療機関への受診も必要です.
頚椎腫瘍,頚髄腫瘍
頚椎,頚髄に発生する腫瘍も存在します.そのための症状は,痛みだけでなく,神経の圧迫によるものなど様々です.また,頚椎,頚髄に最初から発生する腫瘍でなく,他の部位のガンなどが頚椎に転移し頚髄を圧迫して麻痺が起こることもあります.
治療法
首の病気の治療法としては,大きく分けて保存的治療法と手術的治療法があります.
保存的治療法
・鎮痛剤を含んだ湿布,塗り薬
・炎症を和らげ痛みを軽くする鎮痛剤,筋肉の緊張を抑える薬,しびれの回復を促すビタミン剤など投薬
・頚椎の安静を保つため首を固定する装具療法
・麻酔薬による神経ブロック
・温熱療法,頚椎牽引療法,筋力増強訓練などの消炎鎮痛処置,理学療法,リハビリテーションなど
手術的治療法
手術療法を行うのは
・保存的療法で軽快しない場合
・神経根圧迫による疼痛があまりに強い場合
・脊髄圧迫による頚髄症の症状(手足の運動障害)進行が早い場合
などです.
頚椎の手術は恐いものという印象を持たれる方が多いようですが,現在頚椎の手術は,脊椎脊髄専門の整形外科医が行っています.とことん症状が悪くなってから手術をするのではなく,適切な時期に行うことが回復を早めるためにも必要です.主治医の先生と相談しながら,くれぐれも手術のチャンスを逃さないようにしてください.
日常生活での注意
首は解剖学的な特徴から,反らせる,つまりあごを上げた状態にすると,神経を圧迫しやすくなります.すると症状が悪化するので,日常生活では,首を反らせないように注意してください.テレビを見るとき,パソコンを見るときに,あごを上げた姿勢になっていないでしょうか.また,洗濯物を干す,入れる場合にあまり上を向きすぎる場合は,物干し台の高さを低くするなどの注意も必要です.同じ意味で,低すぎる枕は,首を反らせていることになるので,これも十分注意してください.
いわはしクリニック 岩橋俊幸 2010年7月31日