医療に関するマスコミ報道の読み方

吉川医院 吉川隆啓


 健康な方もそうでない方も、若い方もそうでない方も健康や病気に関心があるからでしょうか、マスコミでは医療に関する報道が結構行われます。報道内容をどのように読むべきでしょうか。

 ・革新的な治療方法が開発された
 ・始めて○○病の手術が成功した
このような記事を読んだら、革新的な治療法や手術を受けてみたくなりませんか?
 ・○○病院で○○の手術に失敗
こんな記事を読んだら○○の手術は受けたくなくなりますね。

 日常診療に携わっていますと患者さんから新聞記事になった治療方法について相談を受けたり要望を受けたりすることがあります。その時、私は成功した記事の載った治療はおすすめしません。文章外に「失敗しても不思議は無い」という暗黙の了解が読めるからです。逆に失敗して記事になる治療方法は「成功しないのが不思議」ですから受けてもいいのではないでしょうか。

 数年前、肝臓移植のニュースが流れましたが最近はニュースとして流れてきません。今はこの手術が行われていない、のではありません。当時よりも今の方が数多く行われ、成功しているはずです。私の説では「必要なら受けてもいい手術になってきた」と言うことであります。マスコミ報道は事実をそのまま伝えるのではなく、「報道価値」があると判断された事柄を取り上げます。そのままだと思って受け取ると真実をゆがめて理解する可能性があります。

 H18年の夏に奈良県の病院で出産途中の女性が意識障害になり「18の病院に断られ、たらい回しにされて死亡した」という新聞記事がありました。他のマスコミも同様の報道をしていたと思います。
 この報道を「18の病院で対応できないような、分娩中の意識障害に陥った女性を府県を越えた医療連携で無事男子を出産。母親は残念な結果になったが赤ちゃんは元気に育っている」という書き方が出来なかったのでしょうか。新聞社を始めテレビ・ラジオなどの報道機関が多数あるのに皆が同じ立場からの報道でした。しばらく前なら「無事出産」の報道になったのではないかと思ったりもします。同じ事柄も書き方次第で医療不信をあおるようにもなり、美談のようにもなります。

 テレビのゴールデンタイムのバラエティー番組の話題として医療問題を扱うことがあります。極端な事例、特別な一例を持ってきて「こんなことがあります」と話題提供するわけです。そしてなんでも知っている様な顔をした「医者」がでてきて「ひどいですねえ」「そんなことがあるんですか」「こういう場合は・・・」というようなコメントをつけます。
 奈良県で起った産婦人科の事例を扱った番組では、そんなに経験を積んだとは思えない経歴の「整形外科医」(本人のホームページによる)が産婦人科の事柄にコメントをつけていました。同じ整形外科を標榜する医者としてこの方のコメントには誤りがなくても立場を疑いたくなります。番組全体に対しても同様の気持ちを持ってしまいます。
 インターネットを通して伝わってくる他の医者の意見でも同じように考える方が居られるようで、報道機関にクレームをつけたそうです。
 「報道番組としてあの内容では如何なものか、訂正放送をしていただきたい」に対して放送局は「あれはバラエティー番組ですのでそういう立場でご覧
ください」と言う返事だそうです。視聴率をあげるためのバラエティー番組だというのです。

 同じ内容を事実を外さないでどう表現するか、それぞれの報道機関の「報道の自由」の範囲のことで口出し無用、部外者は黙っておれ、でいいのでしょうか。特殊でない当たり前の疾患を、当たり前の治療方法で受けている(行っている)患者さん(や医療関係者)に医療不信を植え付け増幅させるような内容では困ると思います。なんとか正していきたいものですが一方の当事者である医療関係者・医者からの意見は無視されがちであったり、反って反発されたりすることが多いのです。

 こういう番組を視聴される方にはその番組の目的が何であるのかを考えながらご覧いただき「テレビの放送したことだから」「新聞に書いてあることだから」正しいと鵜呑みにしないでください。放送内容を左右しかねない「放送の目的」「放送の立場」「表現方法」などの裏に隠れてしまいがちな「本当の姿」を見抜く賢い視聴者になっていただきたいと思います。