整形外科と接骨院の違い

秋田市 三浦由太


私たち整形外科のところに来るまでに、ほかで治療を受けていたという、患者さんに聞いてみると、外科などの医師に診てもらっていたという患者さんよりも、接骨院で診てもらっていたという患者さんの、多いのに驚かされます。いろいろな雑誌などでも、「接骨」などという言葉まで出ていたりして、接骨院をやっているのは、医師であると勘違いしている方も、大勢いるようです。あくまでも「接骨」です。

ほねつぎ(柔道整復師)は、医師ではありません

 整形外科は、医学の一分野であり、医師でなくては、整形外科専門医になることはできません。これに対して、接骨院は、ほねつぎとか、接骨師と呼ばれることもありますが、正式には、柔道整復師という名称で、医師ではありません。高卒後、3年間専門学校に通って、柔道整復師(以下柔整師という)の国家試験に合格したら、直ちに開業するのが普通のようです。

ほねつぎ(柔道整復師)が施術できる病気は、安全性を考え、法律で制限されています

 医師以外が、医療行為を行うことは、法律で禁じられています。したがって、柔整師のしていることは、医療行為ではありません。これは施術と呼ばれて、その業務範囲は、柔整師法により規定されています。すなわち、打撲、捻挫、脱臼、骨折等の外傷に対して、外科的手段、薬品の投与等の方法によらないで、応急的もしくは、医療補助的方法により、その回復を図ることを、目的として行うとされています。
脱臼、骨折は、応急の場合を除き、持続して柔整師が、施術を行う場合は、医師の同意が必要です。つまり、医師の同意なしに、柔整師が扱えるのは、捻挫と打撲だけということになります。

法の趣旨としては、放っておいても、治るような、打ち身や捻挫については、お母さんが、子どもが痛がって泣いているときに、なでてあげたりする、程度のことは、医師の資格がない人がやっても、許されるでしょうということのようです。

柔道整復師という資格は、医療行為を行うには、十分な資格ではないので、患者さんの安全性を考えて、行える疾患を、誤っても害のない病気の範囲に、法的に制限しているわけです。また、十分な診断ができないので、治療を誤る危険性が高いので、施術は、やむを得ない急性期以外は、医師の許可(監視)のもとに行う事が、求められているということと思います。

トラブルの具体例

 しかし、実際には、慢性の腰痛や膝、肩などの痛みに対して、柔整師が、施術を行っていることは、周知の通りです。彼らが、健康保険に提出するレセプトの負傷名は、すべて捻挫です。
こうして、柔整師が、なんでもかんでも、捻挫と、所見をつけているうちには、重大な疾患である場合が、含まれています。私が見聞きした範囲でも、アキレス腱断裂の見逃し。骨肉腫に対して、何の意味もない施術を繰り返し、患者に確実に治癒すると、保証しつづけた例。癌の骨転移に対して、無意味な施術をして、病的骨折を起こした例。肩関節脱臼に対して、暴力的な整復を試みて、上腕骨頚部骨折を起こした例など、枚挙にいとまがありません。


 どうして、柔整師に対する訴訟は、ニュースにならないのでしょうか?アキレス腱断裂で、柔整師で40日間の施術を受けたが、当然のことながら治らず、訴えた例があります。京都地裁、平成4年3月23日の判決では、柔整師の責任は5割として、医師にかからなかった患者にも、過失があるとして、5割相殺としています。こうした判例があるので、弁護士が相談を受けた場合、柔整師相手の訴訟をしても、身入りが少ないので、医師に対する訴訟より、ずっと頻度が少なくなるということなのではないでしょうか。
 また慢性の腰痛や膝、肩の痛みなどに悩まされている患者さんは、比較的高齢の方が多いのですが、こうした場合、糖尿病や高血圧、心臓病などの、内科的疾患をしばしば合併しています。いつ何時こうした疾患のために、重篤な状態に陥るかもしれないわけですが、医師でなくては、こうした緊急事態に何の対応もできません。

ほねつぎ(柔道整復師)にかかるときは、あなたの自己責任の原則でかかる事です

患者さんが、どこを訪れるのか、医師を受診するか、柔整師を受診するかは、まったく自由です。フリーアクセスの原則といいます。優れた日本の制度です。ただ、正しくその施設の性格の違いと、かかれる病気の範囲を理解して、自己責任の原則で、選択していただければと存じます。自己責任の原則とは、選択の自由と、同時に、その起こった結果にも、みずから責任を持つという事になります。
賢い患者さんになりましょう


参考文献
医業類似行為について(リンク切れ 2021.7.10)