災害時に備えて整形外科医ができる活動

カワムラ整形外科 院長 河村英徳

 現在私は日本臨床整形外科学会(JCOA)における理事として、JCOADiT(災害医療派遣チーム)検討委員会の担当理事を6年間担当している。その立場と日本整形外科学会の災害対応委員会の委員を4年間、そして愛知県医師会の救急医療・担当理事として中部医師会連合の救急災害担当理事並びに日本医師会救急災害医療対策委員会委員の立場から、整形外科医が災害時にできる活動、さらに災害時に備えた活動について私見を述べる。

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 我々は近年大きな広域災害として阪神・淡路大震災と東日本大震災という大きな地震を経験した。平成7年に起きた阪神・淡路大震災では外科系の外傷が多く発生した。初期の超急性期は挟み込まれや倒壊における外科的外傷が中心であり、私も5日目から名古屋市の救護班として現地の救護活動に入って10日間の活動を経験したが、頭部の外傷や自宅が心配で戻ってガラスや釘などを踏んだ足底部の怪我が多く、化膿した創部の切除や縫合など外科的ニーズを多く経験した。また病院クラスの整形外科医の多くが、切断肢の処理や処置、脊髄損傷や骨盤損傷など整形外科外傷としての災害時活動を多く経験した。

 一方、東日本大震災においては多くの地域で津波における水害と破傷風などの感染症、時期的な低体温やインフルエンザや肺炎などの内科疾患及びノロウィルスを中心とした食中毒など消化器症状を中心とした内科ニーズが中心であった。この際は知り合いの整形外科医もDMATとして現地に支援に入ったが、現地ではあまり整形外科医の活躍する場がなかったと感じたと言われた。その後の支援活動では生活不活発におけるロコモやフレイルにおいて、リハビリ的な支援活動や、地域社会における整形外科診療の早期復活において整形外科としての支援は必要となることはあったが。

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 災害には地震のような広域災害はもとより、最近の異常気象における豪雨災害や台風災害に関連する水害などもある。水害時には津波と同様、挫創や挫滅創に対する創傷管理や破傷風の予防などにおいては、若干整形外科医が関われることはあり、令和2年7月の熊本県では避難所や避難生活における問題点として、下肢静脈血栓の予防やロコモ対策などにおいて整形外科やリハビリにおけるニーズはあったと思われる。

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 また日本では稀であるが、近年の国際的なイベントにおいてはテロ災害なども懸念されており、2013年のボストン・マラソン爆発事件においては爆傷などの際に四肢の切断や脊髄損傷、骨盤骨折などの止血管理や外傷処置において整形外科医が活動したこともあり、これからの大阪万博や国際イベントにおける整形外科医の事前支援計画や訓練も必要となることであろう。

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 今後30年以内において、西日本では南海トラフをはじめとする大災害の確率が高まりその備えが叫ばれている。またその懸念は北海道東方沖地震や首都直下型地震の確率も高まりつつあり、地震大国日本においては全国どこでもいつ被災する可能性も決して低くない状況である。しかし我々整形外科医においてはDMAT(災害派遣医療チーム)に所属する隊員の数はわずかであり、日本医師会が組織するJMAT(日本医師会災害医療チーム)においても整形外科医の所属率は決して多くない状況である。そんな中で我々JCOADiTでは整形外科開業医の先生達にも是非災害時に整形外科医ができることを知っていただき、いざという時に活躍していただける内容を研修会で提供している。その中身としては外傷診療基礎知識とその手順、そしてCPR(心肺蘇生術)&AED(自動体外式除細動器)研修会、トリアージ研修、骨盤固定帯やターニケットを中心とした出血管理と止血、骨髄針を使用した骨髄輸液はもとよりDVT(下肢深部静脈血栓症)に対するEcho検査の仕方などの研修を行なってきた。

 もちろんこれは災害時において初めて役に立つものであるが、日頃から研修をしておくことや準備することで、日常診療においても役に立つことも視野に入れた研修を行なっている。さらに万が一被災をした場合においても、いち早く地域社会における整形外科診療体制の復興を目指して、各都道府県の各COA(臨床整形外科医会)において災害対応委員会の設置と災害時実務担当者を選任し、そのメーリングリストと担当者会議を定期的に行なっている。そのような日頃からの災害時の備えが我々整形外科医でもいざという時に役に立つ行動において地域社会に貢献ができるのではないかと考えている。

 また積極的に日頃からマラソン競技などのスポーツイベントに参加することで、多数傷病者に対するマネージメントやそのリスクを知ることができて、被災時の初期行動をスムーズにするために積極的な救護活動への参加を呼びかけている。

 我々整形外科医が災害時には活動する内容としては一見わかりにくいものであるが、このような日常的な活動がいつか必ず役に立つかもしれず、我々は日頃から幅広いトレーニングや訓練を行ったり、行政をはじめとして消防や警察など各種団体を含む関係各所との顔の見える関係作りも大事だと私は思う。