粉末消毒薬
千田整形外科クリニック 千田 直
具体的商品名を言うと差しさわりがあるのですが、「キズを乾かして治す」とか いう粉末消毒薬、外科系の医者の間ではすこぶる評判が悪いのです。 今回は擦過傷の治療について述べたいと思います。
擦りキズ(擦過傷)は打撲などと並んで日常よく経験するけがです。小さいお子 さんなどしょっちゅうですよね。軽いものでしたらたいがいほっといても良くな ります。ただすりむいた場所が地面とかコンクリートだったりすると、なかなか 治りません。
皮膚は体の中と外界を隔てる臓器です。体の中の成分が外に漏れるのを防ぎ、かつ細菌などから体を守っているのです。そこが傷つくと、体液が失われ細菌に対して弱い状態になります。擦過傷は切りキズなどと違って、深くはないのですが 皮膚が傷つく範囲が広くなるため、その分細菌も広範に繁殖しやすくなるので す。さらにすりむいた場所によっては、傷に土や砂といった汚いものが入りこみ 余計治りずらくなります。
キズに対しては当然消毒が必要になりますが、消毒は1回やればいいというもの ではありません。じくじくしている間は細菌が繁殖していると考えられるので、 何度も消毒して汚れたガーゼを交換しなくてはならないのです。そうしてまわり から皮膚があがってくるのを待つのです。
ではここで「キズを乾かして治す」の登場です。「キズを乾かして直す」は.… えーと、何度もこの語句を使うのは面倒なので、乾かすを英語に翻訳して仮に 「ドライ」としましょう。えっ、そのまんまやないかって。とりあえずおいとき まして話をすすめます。
ドライを擦過傷の表面に振りかけます。キズは一応乾いてじくじくはしません。 ところがそのままにしておきますと、表面は硬くこびりついた状態になります。 そしてその下で細菌が増殖していくことがあるのです。
次第に痛みや腫れがひどくなって病院に行く。ドライを取り除いてみると中から は大量のウミが出る。外科系の医者であれば時々経験することです。固まったド ライが邪魔をして、ウミの逃げ場がなくなっていたのですね。結局化膿止めの注射をしたり、キズを治すためより長期の通院が必要になったりするのです。
どうしてもドライを使いたい人は…ここまで書かれて使いたくなるかどうかはわ かりませんが…次の注意を守ってください。
1) ドライを使用する前に水道水等で患部の汚れを充分洗い流す。
2) 患部が広範囲にわたるキズや深いキズ、やけどの場合は使用しない。
3)重ね塗りをしない。
4) 同じ箇所に繰り返し使用する場合は、患部をきれいに洗い、付着している ドライを除去してから使用する。
でも、どうせ病院に行くなら何も付けないで、ガーゼくらい当てておくのがベ ストだと思います。