苦情を受け診察料を返還

のだ医院 埜田 和之


5月23日の広島県の地方新聞である「中国新聞」に以下の記事が掲載されておりまし た。この件に関して一医者として意見を述べたいと思いペンを取らして頂きました。
記事の内容は以下のとおりです


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幼児受診・・・内科医、投薬せず。苦情受け診察料返還

 東広島の休日診療所で4月下旬、水疱瘡らしいと来診した子供の親から徴収した診察 料を、「病状の十分な説明が無かったのに納得できない」との苦情が出たため市が返 還していたことが、二十二日までにわかった。
「医療行為を否定」と医師
両親や担当した医師、市などによると、賀茂郡内の主婦(36)が、胸から腹にかけて数カ所に発疹が出た2歳の息子とともに「水疱瘡ではないか」と来診。内科が専門の、当日の担当医は「熱は無く、様子を見たほうが良い」と投薬はせず、カルテを作成。診療所は診察料として、医療保険の自己負担分二千七百三十円を徴収した。外で 待っていた主婦から話を聞いた夫(39)が、受付に「小児科の専門医でもない。注射も打たず、お金を取るのはおかしい」と、診察料の返還を要求。市は二日後、全額を返還したという。理由を市福祉部長は「現場の状況を職員から聞き総合的に判断し た、患者の気持ちを尊重した」と説明している。休日診療所の内科・小児科診察は、 東広島地区の医師がローテーションを組んで担当。対応した医師は市に対し「相談も 無く医療行為を否定される判断をされた。小児科の専門医でない時は、患者への説明を徹底させるなどの改善が必要。」と話している。


今回の休日診療所は、医師会館の中にあり当番の医者が出向して診療をするという形式のもので、自院で当番日に診療するものとは異なります。
問題点を三つあげてみました。
1、休日診療所のあり方
2、診察料の返還
3、新聞記事


1、休日診療所のあり方

 休日診療所のあり方、あるいは目的はどのようになっているのでしょうか?行政の考 える休日診療所のあり方と今現在の診療所のあり方に食い違いがあるためにこのよう なトラブルが生じるのだと思われます。
私が考える休日診療所の目的は、専門的な治療や診察を受けるところではなく、救急 で治療すべきかそのまま様子を見て良いかを判断するところ。また、処置が必要な場 合は応急処置的な治療をするか、必要がある場合はより専門的な治療を受けられる施 設へ搬送する。そのためのための一次救急施設であると思います。
つまり、経験のある医師がいれば何も専門医がいる必要はないのではないかと思いま す。これはどこの市町村の休日診療所にも共通する事ではないでしょうか?
この事を、行政と医師会が話し合い、しっかり市民へ向け宣伝することが必要なので はないでしょうか。

2、診察料返還

 今回の行政の対応の仕方には大変な問題があります。診察料を返還するということ は、行政が自ら「休日診療所のあり方」を否定したことになります。また、「様子観 察」という医師の診断も否定した事になります。
診察料とは、個々の患者さんを診察しその患者さんの年令および状態によって医者が 治療法を選択するための判断料です。
病気が何かを診断する事も大切ですが、その時の病状を診察し治療法を選択する事は それ以上に大切な事だと思います。
病気に関しての治療法は、教科書にいくらでも書いてありますが、同じ病気でも、そ れぞれの患者さんの状態が違えば治療法もまったく違うわけです。その中に「様子観 察」という判断もあるのです。
これは、医療の原点をもう一度考え直す必要があると思います。まだ満足な薬もな かった時代、我々医者の大先輩も「心配ない、様子を見ときなさい」という診断を下 したことでしょう、その言葉で多くの人が救われた事と思います。手が届かないぐら い高価な薬を使わなくても、個人の力で回復するであろうと診断されることは患者さ んにとってもこれぐらいありがたいことはなかったと思います。
薬をもらったり注射を受けないと治療じゃないと考える事は、この医療の原点を忘れ てしまっているのではないでしょうか。

3、新聞記事

 新聞の書き方(幼児受診・・・内科医 投薬せず 苦情を受け診察料を返還)に も、あたかも医療ミスが起こったような書き方があり意図的な感じもします今後は、 もう少し正確に情報が伝わるように注意して書いてほしいものです。


その後の経過

 行政側と医師会が話し合い、また市長に診察料の返還は保健医療を見とめない行為つ ながると指摘。「適正な保険診療として取り扱っていただきたい」と申し入れた。 上田市長は「診察行為を取り消した結果となり、申し訳ないと思っている」と陳謝。 事実関係を調査し、あらためて対応したいとした。
また、新聞記事に関しては医師会長が中国新聞社東広島支局を訪れ、長富支局長に抗 議した。記事はタイトル、内容とも問題があり、会員に混乱を招き、今後の救急医療 体制の足を引っ張るもの。と指摘した。
支局長は、「そのような状況になるとはまったく思ってもいなかった。今後は救急医 療が前進するように考える。相談に応じていただきたい。」とした。
6月5日付けの中国新聞朝刊によると、市は一転「返還は誤りだった」として、患者 側から診察料を再徴収していたことが分かった。市議会文教厚生委員会で4日明らか にした。
市によると、東広島地区医師会から「適正な保険診療として扱ってほしい」と抗議を 受けて対応を再検討。5月30日、患者側へ事情を説明したところ、診察料の自己負担 分の支払いに応じた、という。副支部長は「診療行為があれば診察料を請求する、あ るべき姿に戻した」と述べた。
いったん返したことについては、「不安を抱えている患者さんに早く対処しようとし て、担当医の意見を聞く前に判断した。結果として医師の診療を否定した事になり、 不認識だった。」と釈明した。
患者側は、「市からの説明を聞き納得した」と話している。
最後に、患者さんの不安が診察料を返還することで癒されると考えていた行政の「感 覚のずれ」を矯正しない限り今後も同じような問題が生じると思われます。また、ど のような説明を聞き再徴収に応じたのかその「納得できる市の説明」というのも公開 してほしいものです。


参考資料

厚生労働省 メフェネム酸を使用禁止へ
小児に多いインフルエンザに伴う脳炎・脳症に使われる解熱剤の中で、非ステ ロイド系消炎剤のメフェナム酸(商品名・ポンタールなど)について、厚生労 働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会は30日、「小児のインフル エンザの解熱剤として使用を禁止する」との見解をまとめた。
脳症患者の死亡と解熱剤との明確な因果関係は確認できないが、日本小児科学 会が「別の解熱剤があり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重に」などの見解 を公表していることなどを受け、製薬会社や学識経験者の合意を得た。明確な 臨床データによらず、関係者の合意により製剤の使用禁止を決めたのは極めて 異例。
同省では、昨年1月から3月までの間に脳症・脳炎になった16人中9人が投与後 に死亡した、別の非ステロイド系消炎剤のジクロフェナクナトリウム(商品 名・ボルタレンなど)に関しては、昨年11月、インフルエンザ脳炎、脳症の患 者への使用禁止を決めていた。
また、同部会は急性脳症の一つで小児に多い「ライ症候群」に関しても、ジク ロフェナクナトリウム投与との関係が否定できないとして、インフルエンザを 含め、小児のウイルス性疾患への投与禁止を決めた。
2001年5月30日(水)