電子カルテの乗り替え
松原リウマチ科整形外科 松原 三郎
当院では2003年にBML社のMedical Stationという電子カルテを導入しました。今では診療所では、 ありふれた診療ツールですが、導入当時はまだ珍しく、私自身は引退するまでに、このシステムを容量さえ増やしていけば、使い続けられるものと信じておりました。
ところが、年を経るにつけ、徐々に電子カルテ自体のパフォーマンスが低下し、患者さんの情報を 呼び出すのに、特に2-3分を要するようになり、外来業務に支障を来す様になりました。これは、当院がリウマチ性疾患専門有床診であり、患者さんが一旦入院すると肺炎などの重点治療を行い入院期間も1カ月を超えるため、その際に記憶容量が極端に増えるためです。またOSが老朽化しており、電子請求はインターネット経由のためセキュリティの心配も出てきました。そこでBML社に連絡したところ、既に当院が使用している機種 はなく、入院版もないとの返事でした。外来部門だけ変更する選択肢も無くは無かったのですが、 驚いたことに、現行の電子カルテに移行できるのは患者情報のごく一部であることが判明しました。
そこで、急遽他社の電子カルテも含めて導入を検討することになり、数社の電子カルテの説明会を 開催しました。 個人的にはMind Talkという電子カルテが、システムがシンプルで汎用性があって良いように思い ましたが、職員たちの要望が膨大であること(10年も使うと苦情は山ほど増えます)、システム不調時は診療所側で対応することに職員の不安がある上に、診療規模が病院並みで通常の有床診療所版では対応が困難であることから、断られてしまいました。結局 Panasonic社のMedicom HRκ-IIを購入することになりました。値段はMedical Stationをサーバーだけ変更する場合と比べると、倍の費用となりましたが、端末機種総てが新調 されることを考えると、対費用効果は高いと判断しました。
ただ、ここからが苦難の道のりとなりました。当初は頭書きと病名のみ移行するとのことでしたが、リウマチ性疾患専門診療所の私たちにとって、検査データと処方歴は整形外科の手術記録同様無くてはならないものです。粘り強く交渉した結果、旧カルテのサマリー情報をどうにか取り出して移植することに成功しました。しかし、処方内容の移行はできませんでした。処方には薬剤名のみならず、 各社独自のコードが内包されていて、それが移植不能の理由とのことです。それならば、薬剤名だけ抜き出して、コードを割りつければ良いように思うのですが、メーカー側からは難しいとの回答でした。熊本大学付属病院がオーダリングシステムから電子カルテに移 行した際は、処方情報などは総て移行できたと聞いていましたので、それなりの費用はかかるのかも知れませんが、技術的には出来ない筈はないのではないかと思います。
結局、職員たちが手作業で1500名ほどいるリウマチ患者の全処方内容を移植することになりました。 2ヶ月以上の職員たちの献身的な努力により、移植されたデータは新カルテに移行後約2カ月を経過していますが、ほとんど間違いは出ていません。血液検査結果はcsv ファイルを保存していたため、大半のデータは移植可能でした。 新カルテに移行して1日目だけはインターフェースの違いで、職員たちも若干混乱しましたが、2 日目以降トラブルを起こすのは私だけになりました。私もそれほどPCスキルが無いわけではないのですが、外来診療時はクラーク入力のため、自分でほとんど入力しませ ん。また、手術記録や超音波記録などは別ファイルに出力する際、前の電子カルテより若干動作が 遅く、操作に慣れるのに2週間ほど かかりました。
結果としては、患者情報の読み出しが速くなり、介護保険、自賠責、特定疾患継続申請などの書式にも対応できるため業務効率は改善しています。もともとレセコンを手掛けていたメーカーですので、レセコンとしての機能はかなり充実しています。今年はリハビリ部門のスタッフ増員により外来患者数はかなり増えていますが、診療の終了時刻は僅かとはいえ早くなっていますので、新カルテ移行は成功と判断してもよさそうです。
日本の電子カルテは共通プラットフォームが無く、各社独自の様式をとっています。また、同一メーカー内ですら、システムが変わると患者データの完全移行はできないことがあることも判りました。厚労省も電子請求を推進してい るのですから、速急に統一プラットフォームを作成していただきたいものです。 当院はリウマチ性疾患が専門で処方移行が大変でしたが、同時期に同じ電子カルテへ移行した後輩 の整形外科無床診療所では、この部分での苦労は余りなかったようです。電子カルテシステムの老朽化は必ず起こります。その際の参考になれば幸いです。