窓口3割負担の意味するもの

みなみ整形外科クリニック  三浦由太


 医療保険は大別すると被用者の加入する社会保険(社保)と自営業者などが加入する国民健康保険(国保)の2つに分けられます。国保は以前から窓口での一部負担割合は3割でしたが、1997年に1割から2割に引き上げられたばかりの社保本人も再度の引き上げで来年4月から窓口3割負担になります。

 しかし、社保は被保険者だけでなく、事業主も保険料を負担していますから、社保と国保では保険料は社保のほうがずっと負担が大きいわけです。それで窓口負担が同じというのでは世の中通るものではありません。厚労省としてはいずれ保険の統一を企てていることは明らかです。そこまでは報道でも言われている通りですが、その先のねらいは医療費の総枠規制ではあるまいかと強く疑われます。

 保険がいくつにも分かれていると、国民は絶えず職を変えたりしておりますから、同じ人でもどんどん保険が変わります。するとひとつの保険者で、ある年の支出を予想して予算を立てるということが非常に難しくなります。最近はリストラの嵐が吹いておりますから、収入も支出も予測困難ということになります。ところが全国民がひとつの保険ということになると、収入と支出について非常に予測しやすくなるわけです。そうすると予算を立てて、たとえば3ヶ月ごとに目標値をおくとすると、2ヶ月のうちに目標値の3分の2をオーバーしてしまったとすると、3ヶ月目はそのオーバー分に応じてたとえば通常10円の診療報酬の1点単価を9円80銭に減らすとかするわけです。こういう総枠規制ということは厚労省の抜本改革ですでに言われていることですが、保険が細分化されている現状では予算が立てにくいため、実際上は不可能であるのが、保険の一本化で非常にやりやすくなるのです。

 しかし、医療費の削減ということは医療のレベルダウンなしにできることではありません。1998年の統計では日本の医療費はGDP比で世界第19位でした。これだけの費用で世界一長寿の平均寿命と世界一低い乳児死亡率を実現していることはほとんど奇跡というべきです。これをさらに削減して途上国並みの医療費で先進国中トップの実績を上げつづけることは不可能というべきです。

 そもそも、1999年に31兆円だった国民医療費は2000年は29兆円に減りました。医療費が減ったのに、保険料を値上げして、さらに窓口負担を増やすとはどういうことでしょう?保険が破綻に瀕しているのは医療費のせいではないということはこのことひとつ見ても明らかではないでしょうか。

 国民皆保険が成立して以来、何十年というもの、保険はずっと黒字だったのです。それがほんの数年の単年度赤字が出たからといって破綻に瀕するというのはこれまでの運営に問題があった証拠です。保険側は被保険者に負担増を求める前に、まず無駄な保養所をすべて手放すなどの方策を講じるべきですし、旧厚生省から天下った歴代の理事たちは自分たちが黒字分の運用を誤った責任をとって退職金を返還すべきです。

 どうして厚労省から天下りした連中が好き放題にやったつけを、国民医療のレベルダウンで尻拭いしなくてはならないのか、私は怒りを禁じ得ません。


参考資料

(1)日医総研 紙上セミナー
組合健保の財務事情 本当のところはどうなんだ

(2)日医総研ワーキングペーパー

1)サラリーマン3割負担延期の提言
 -今、自己負担引き上げの必要性はない-(2002-10-30)

2)被用者保険の財務分析-2000年度速報版- (2002-06-26)

3)国民健康保険の財務分析 -1999年度版- (2001-09-11)

(3)健保連
医療保険制度の基礎知識(リンク切れ 2021.7.10)
医療保険制度の危機(リンク切れ 2021.7.10)
必要な医療制度改革(リンク切れ 2021.7.10)
医療制度が変わります(リンク切れ 2021.7.10)

(4)-持続可能な医療体制のために-日本の医療の実情(日本医師会)