今更であるが改めて問う「電子カルテ」か「紙カルテ」か

伏見啓明整形外科 札幌骨粗鬆症クリニック  橋本英樹 (北海道 札幌)

1. はじめに

 人間の歴史において、道具の発明、文明の発達が人間の暮らしを変え、考え方まで変えてしまうことはよくあることである。例えば、戦国時代における鉄砲。戦国武将たちは鉄砲は戦さの役に立つのか、刀や弓矢に比べて強いのか、かなり考えたはずである。そして、鉄砲が戦さを変えたことは皆様、ご承知のこと。蒸気機関の発明が引き起こした産業革命も人間の暮らし、考え方、歴史を大きく変えた。
 最近では、携帯電話、スマホ。これらも人間の暮らし、考え方を大きく変えている。
 現代でもいろいろなものが進行中である。ガソリン車は電動自動車に置き換わるのか?ビットコインはどうなるのか? 等々。
 ここ「視点」では、そのような大きな「視点」から電子カルテを改めて素な気持ちで眺めてみたい。
 つまり、電子カルテが良いのか、紙カルテが良いのか、というのは単なる優劣論ではなく、一つの医療を変え、人間を変えるような、社会変革現象のひとつかもしれない、という点からここでは論じてみたい。  ITはどんどん進み電子カルテもこれから変わるだろうし、紙カルテさえも変わっていく。そうして医療の現場はこれからどのようになっていくのか。それに私はすごく興味を覚えるのである。そのような気持ちでここでは述べていきたいと思う。
 まず、私は昔から紙カルテを使っており、今後も電子カルテを使う気は無い、と申し上げておく。そのような立場で述べさせていただく。
 最初からであるが、本音を言えば、今まで、あちこちで電子カルテのことについていろいろ語って、そして、語られて来ているが、あれが良いものとは私にはとても思えない。故に使わない。
 使っている人は、便利だ、と仰る。もう紙には戻られない、と仰る人が殆どで、実際にその人、その病院は電子カルテを使い続けている。
 これは私が関心を寄せていることなので、どのようなことが便利なのかを電子カルテを使っている医師や看護師に根堀り葉掘り聞くようにしてきた。
 この度の「視点」ではそのような場で聞いたこと、それに対して私が思ったことが論点の主体となるであろう。

 まず、私事から・・・  電子カルテの話を始めて聞いたのは、開業しようと言う時。
 業者が電子カルテを導入しないか、と持ちかけてきた。
 業者の話を聞いてすぐに思ったのは、「電子カルテを使うとカルテの置き場が要らなくなるだろう」ということ。そしてそれが紙カルテでは絶対にできない最大のメリットであるな、と思った。
 業者は更に続けた。だから開業の最初から電子カルテを導入した方が良いですよ、と。なるほど、一理あることと思った。始めに紙カルテでやって、のちに電子カルテにすると、紙カルテの保管庫は必要だし、患者さんを診察するときに紙カルテを見たり電子カルテを見たりしていかなくてはならなくなる。  事務の人も紙カルテ併用の人が来たら紙カルテを出さなければならない。まあ、このような状態も5年くらいすると、ほぼ電子カルテに一本化されると思うが、その間は不便であると言えば不便であろう。  なるほど、電子カルテをやるなら最初から、が望ましいと言うのは正しい。

 しかし、紙カルテの置き場は今ではまったく困らなくなった。
 ITの進歩のおかげである。
 カルテをスキャンするのである。いわゆる「自炊」である。
 「自炊」とは、本をバラして、50-100ページずつ一気にスキャンしていく。あまり手間もかからず、1000ページくらいの本をスキャン出来る。このことを「自炊」と呼んでいる。  これを紙カルテでするのである。
 古いカルテを自炊する。するとカルテは電子保存されるのである。  当院ではこの方法で、開院して16年目になるが、カルテは全て保存されている。  故に、私の第一印象であるところのカルテ置き場が節約できる、という電子カルテのメリットはなくなったのである。したがって、開業の当初から電子カルテを入れるべき、という意見も正しくはない。

2. 電子カルテを使っている人のお話から(好意的な意見)

 さて、電カルを導入された方にいろいろお聞きしてみた。
 (ケース1)近隣のよく往診に行く病院が7年ほど前に電子カルテ導入に踏み切った。最初は大変そうであった。何しろ、私が往診で行くと撮影したレントゲン写真がなかなか出てこないのである。当時、レントゲンを呼び出せるのは、婦長さんだけであった。私が行くと必ず婦長が会議中でも呼ばれ、レントゲンを出してもらっていた。
 しかし、導入して7年もすると皆、慣れてきて、レントゲンはすんなり出るようになった。
 電子カルテは便利かどうか、尋ねると多くの方が「便利である」という。
 何が便利か、と尋ねると、彼女らが言うには、例えば、精神科からうちの病棟(ここは内科病棟であったが)に転科してくるときに、事前にカルテを居ながらにして見ることが出来るのが便利だ、と仰る。
(私の思ったこと)
 電子カルテはどこでも見られるから便利だと言われたら、私は何も言えない。その通りであろう。ただ、電カルの導入には莫大なお金がかかる。この病院は200床の病院。電カルの費用は1ベット100万から200万と言われている。1億から2億の出費。決して軽い出費ではない。
 そのメリットが、転院してくる患者さんのカルテを事前に居ながらにして見られる、というだけでは、その費用、そして電カルに慣れるのに要した努力、これを比べると、ずいぶんメリットが少ないように思う。その病棟に行って事前に見てもよろしいかと思うし(そんなに離れていない)、そして、看護師同士で話をすれば、時としてカルテに書かれていないようないろいろな情報も得られると思うが・・・
 もっとも、看護婦さん方や勤務医の先生がたも、電カルの費用面については関心が薄いようである。これも致し方ないが。
 彼らが経営側に導入を迫るケースは少ないし、私が聞き及んだところ、電子カルテ導入に無向けての会議などでは反対している。
 しかし、このようなことは、会議になる前に上では既に決まっている。会議は意思疎通というか、形だけの合意を得る場に過ぎないものである。故に、電子カルテのコストのことを慮る気持ちは彼らにあまりないようであるのもやむを得ないところであると思う。

(ケース2)新規開業と同時に電カルを導入した開業医
 開業する前に5年ほど電カルのクリニックで彼は働いていたので、彼自身が開業するときに電子カルテ導入も自然だったのかもしれない。
 彼がいうところのメリットは「do」が楽だというのである。
 患者さんの症状、薬が前回と同じ場合、前と同じ、という意味で、「do」と書くことが多いが、それを電子カルテでやるのである。

(私の思ったこと)
  do なら紙カルテにもよく書いているが・・・
  doだけのことは実はむしろ少ない。いつも来院され決まったことをされていく患者さんも多いが、実際に対診するといろいろなことを話される。
 2ヶ月間、肝癌の治療で入院していた、とか、白内障の手術を受けた、とか。
 これらは医療に関することであるが、そのほかのことでは、旅行をしていた、とか、東京の娘の家に行っていたとか、娘が出産するからとの手伝いで来院出来なかった、とか。
 あと、息子が医師でどこどこで働いている、とか、実は患者さんが私の高校の先輩であったとか・・・
 これらの内、カルテに書かなければならないことはどれで、書く必要のないことはどれなのか?
 実は「書かなければならない」とかそのようなことはないのである。
 さて、私はといえば、全部書いている。と言うか、私の先輩の先生方もそのようにしていたと思う。先輩の書くカルテやそのお姿を見て私もカルテの書き方を覚えていったのである。
 一方電子カルテならどうであろう。なかなかこれらのものをキーボードで打つことは辛いことであると予想するし、実際に「辛い」と言う声がよく聞こえてくる。
 自然と自分の電カル中にdoが多くなってしまうと嘆いている人もいる。とにかく電子カルテは入力が大変であると。

(ケース3)大きな病院の腫瘍内科医
 彼は大きな病院で腫瘍内科を専門にしているが、この病院で1年ほど前に電カルを導入した。彼はいち早くこれに慣れたようだ。
 彼は電子カルテは良い、と言う。
 彼は臨床研究をよくしている。
 電子カルテの検索機能が便利であると言う。このような臨床研究に非常に大きな力を発すると思う。
 自分の好きな時間に、検索で自分の求める症例を探し、そのカルテを随時見ることが出来る。
 これが紙カルテであれば、あらかじめ研究テーマを決めて、それに該当する患者名、IDなどをノートに書いておく。あるいは、事務に言ってそのような該当症例を探してもらう。レセコンから検索してもらったりする。
 そして、そのあとそのカルテを出しておいてもらう。そうやって調べて行くのである。

(私の思ったこと)  電子カルテはこのような分野で大きな力を発揮するものであるな、と思った。しかし、このメリットも先にも述べたが、電子カルテの膨大なコストの前には霞むように私には思える。
 また、病院の電子カルテにウィルスが発生することは稀ではない。このウィルスには主として、メールで受け取った添付文書を開いた入り、ネットでピクチャやアプリなどをダウンロードしたり、あと、USBを使って感染してしまうのである。
 それを防ぐためには、電子カルテのコンピューターのUSBポートをすべて塞いで使えなくして、インターネットも管理会社とだけ繋がっているようなほぼ途絶状態にしなくてはいけないだろうと思う。
 そうなると、臨床研究などで、患者の情報にはアクセスできるが、それは見るだけで、自分のPCに患者情報を入力してデータを収集しなくはならなくなるだろう。
 いや、病院スタッフで、USBは使わない、ネットは見るだけでダウンロードはしない、ということを徹底して行うと良いのであるが、電子カルテには大きな病院なら1000人から2000人くらいのスタッフが関わることになる。このくらいの人数にこのような決まりを徹底することは、実際は非常に難しいものである。故に、時々、USBから、とか、ダウンロードして感染、と言ったニュースを時々耳にするのである。

(ケース4) 大学病院に勤務する内科医
 内科は書類が多い、という。そのような時に電子カルテは便利だし、書類が嵩張らなくて良い、と言う。
(私の思ったこと)
 なるほどと思うが、それであれば、書類支援ソフトを使うと良いのではないかな。ITで便利なことはITで「良いとこ取り」をするのが良いのではないかな、と私は思うがいかがであろうか。

(ケース5)同じく大学病院に勤務する内科医
 電子カルテの場合、他科のカルテが読みやすい、と仰る。それはメリットであろうが、他科のカルテが果たして読んで理解できるものであろうか。紙カルテ世代の私にはそのような発想はない。他科のカルテを読む機会などなかったし、それは直接他科のドクターと話をして情報を得ていた。その先生に言わせると、カルテがやはり電子カルテだと綺麗に書いてあるので、そこから情報を取れるのだ、と言う。私の知らないこともたくさんあるのだな、と妙に得心した。

(思ったこと)
 何度も述べているが、電子カルテのコストを考えてしまうのである。「他科のカルテを読む」と言うメリットと電子カルテのコストは釣り合うのだろうか。今なら退院時要約などはワープロで書くことが殆どであるからこのような書類を院内LANで共有したら、「他科の情報」というものもかなり入りそうな気がするが、いかがなものであろうか。これもITの「良いとこ取り」である。

 いろいろとお聞きしてみて思ったことがある。紙カルテから電子カルテに移行するということは、思った以上に非常に大きなことである。一旦これをやったら紙カルテに戻るのは理屈の上では可能だが、実際にはなかなか出来るものではない。
 先ほど、勤務医の先生や看護師さんはコスト感覚が薄い、というようなことを述べたが、実はこの電子カルテに関しては開業医も同じような感じに思えた。電子カルテにするということはあまりにも大きいことであるようだ。故に、コストのことも「もう仕方がない」という気にすらなるように思えるように私には見える。
 さて、電子カルテに替える、ということは、そのように大きな変革であるから、人間というものはそれに慣れようとするものであるようにも見える。即ち、一度電子カルテを採用したら、多少使いにくいことがあっても現実的には我慢して使い続けるしかない。しかしながら、人間はそこにメリットを見出そうとする。そして実際にもちろん電子カルテにもメリットはあるのである。
 勤務医であろうが、開業医であろうが、電子カルテを一旦採用したら、病院のシステム管理上、もう紙カルテには戻られない。初めはいろいろきついことがあるようだ、しかし、我慢して使い続けるしかない。
 人はそのような時に電子カルテに新たなメリットを見つけ、そして慣れていく。  以前使っていた紙カルテにもメリットはあったのだ。しかしそれを振り返っても仕方がない。
 診療姿勢、診療体制も電子カルテに対応するように、変わっているように見える。はっきりとは言えないが・・・
 あえて私の主観を交えて具体的にに述べると、電子カルテを使っている病院の看護室は非常に静かである。黙って画面を見ている看護師さんが多いように見える。一方、紙カルテの病院の看護室は皆、喋っている。看護室内に声が溢れているのである。
 あと、電子カルテの外来も少し違うように見える。私の見たケースだけかもしれないが、前の患者さんが出て行ってから、次の患者さんが入るまで10分くらいのインターバルがある。何をしているのであろうか。普通はすぐに患者さんを入れていくものであるが。
 あくまでも私の主観であると申し上げておく。

3. 電子カルテへの不満

 さて、先ほど、電子カルテに好意的な医師や看護師のお話を5つ載せた。
 しかし、一方で悪い話もたくさんある。
 たくさん聞くが、皆さん、それを当然と受け止めている風に私には見えた。 その例を述べよう。
 例1)電子カルテは時々故障する。すると病院全体の診療がストップする。幸い業者が駆けつけて、2-3時間で回復するケースが殆どであるが、その間は何も出来ない。こんな悪いことはないように私は思うが、電子カルテを使っている人はこのようなことも当然と受け止めているようだ。もっともこのようなことは1年に1度あるかないかのことであるが。
例2)今年の5月に世界的にコンピュータ・ウイルスが大発生し、世界中でいろいろな業界のコンピューターが感染した。このウイルスは最新のOSであるWindows10には感染しないが、古いタイプのWindows7に感染した。Windows7には脆弱性があったそうである。故に、マイクロソフト社は最新のOSを入れるようにアナウンスした。しかし、我々は知っている。OSを新しくすると、時として、パソコンやアプリの調子が悪くなってしまったり、動かなくなったしまったりすることを。そしてなお悪いことに、再び古いバージョンのものにしようと思ってもそれは出来ないのである。故に古いOSであろうが、過不足なく動いていれば使い続けるものである。
 ある電子カルテを使用しているドクターが、業者の勧めに従ってWindows 10にバージョンアップした。すると電子カルテの作動がすごく遅くなった。患者さんのカルテを開くのに1分くらいかかると言うのである。業者に言っても対応してくれないそうだ。きっと業者もどうして良いのか分からないのであろう。このようなことがあったら、2-3日、長くても1週間以内に解決してほしいものだ。バージョンアップをすると時々このようなことが起こることを経験的に知っている。また、電子カルテのバージョンアップをすると大変な費用がかかってしまうものである。だから、多くの医療機関、会社で、Windows7が今も使われ続けているのである。
例3)ある電子カルテを使っている整形外科の開業医。その方の使っている電子カルテは交通事故診療に対応していないのだと言う。故に、その先生は交通事故の患者さんは診ない、と仰る。確かに時々、交通事故の患者さんを診ない、というドクターはいらっしゃる。しかし、それはその方のご信念なのである。
 一方で電子カルテが対応していないから診ない、というのはいかがなものであろうか。しかし、当然のことのように飄々と受け止めておられるように私には見えた。
例4)知り合いの開業している無床診療所の何人かのドクター。彼らは電子カルテを使っているのであるが、同じようなことを言っていたので書き留めておく。  外来患者さんが多い時には、昼休みに書き足りなかったところを改めて書き足すとのこと。  「えっ?」と思った。私はこのようなことをしたことがない。紙カルテではこのようなことはまず起こらない。私には大変な苦痛に思えたが、彼らは慣れているのか、ことも無げに言っていた。彼らは私と同じで、どちらかと言うと、物ぐさで面倒臭がり屋であったが・・・やはり人間、環境に慣れるものなのか。

4. まとめに替えて・・・電子カルテの4つの欠点

 いろいろ述べたがまとめる。  結局電子カルテには4つの大きな欠点がある。
 一つは、思うに、ケース2で私が思ったように、患者さんの言ったことをスピーディーに記録できない、というのが電カルの最大でどうしようもない欠点ではないだろうか。紙カルテならリアルタイムで余裕を持ってカルテに書き込むことができる。もちろん走り書きであるが。
 他科のカルテが読める、と言っても、まず自分のカルテをちゃんと書いて、それが乱筆であれなんであれ自分が分からなければどうしようもない。紙に書いておけば、またカルテを読んだら自分の字であれば読める。しかし、記録がなければ何もない。
 2つ目は、過去の記録を電子カルテは探しづらい、ということ。これを多くの方が指摘しているが紙ならパラパラとめくれば、前にあった記録も容易に見つけられる。電子カルテではスクロールと新たにファイルを開かなければならないこともある。これがやりにくい。
 患者さんは前に一度でも医師に話したことを覚えているものである。それを踏まえて我々は診察しなければならないと思う。
 「前に言っていたのだろうけど、カルテから見つけられないので分からない」というのは、あまり良い外来診療とは言えないのではないだろうか。自分も患者さんから前のことを言われることがあるが、その時にはカルテをめくって探している。けっこう真剣な作業である。一度、患者さんからお聞きしたことを「分からない」「忘れた」とは言いたくないものである。
 私は、自分の書いたカルテを見たら、この患者さんが大病を患ったことも、趣味も、子供の年齢や、自分の高校の先輩であることも、旅行したことも、息子さんが医師として働いていることも、一度お聞きしてカルテに書いてあれば(殆ど以上のようなことは書いてあるが)カルテを数秒でめくればすべて一瞬に把握することができる。別に大言壮語しているわけではない。私が先輩から教えていただいたカルテというものはこのようなものであった。私の時代はカルテとは紙カルテのことであったが、カルテとは大体そのようなものであったし、現在もそうである。
 私が意外にさえ思うのは、電子カルテではそうではない話がたくさん聞かれるのである。
 3つ目はコストである。電子カルテは高額なものである。病院の売り上げの1%前後のコストがかかる。今、病院の収益力は非常に厚生労働省の強力な指導で非常に弱体化しているのである。殆どの病院で2-3%というのが現実である。5%ある病院はすごい収益力のある病院であると言える。こんな状況で、電子カルテに1%持って行かれたら、病院経営自体に重大な影響を与えるものと推測するのである。また、電カルを入れることによって人減らしになり収益力をアップできるという業者のお話とは裏腹に、人件費の節約も実際にはあまり進んでいない。
 それどころか、だんだんデータが蓄積されてくると電子カルテの操作が重くなるという。ハードディスクを増設しなくてはならない。そのようなことでさえ、数十万円、数百万円単位の出費を業者から強いられるのである。電子カルテというものはこのような臨時の出費が実に多いものなのである。
 4つ目はウィルスである。これは甚大な被害を病院に与える。丸一日、あるいは数日、病院機能がストップする。平成29年5月に世界中で大量発生したウィルスでは、いくつかの病院で病院機能が麻痺して、外来、手術もできなくなった。数日経っても機能が回復せず、やむなく他の病院に患者さんを転院させた例もあるという。

 以上のような理由から、私は何故わざわざ電子カルテを使うのかさっぱり分からないのである。
 高度機能病院なら電子カルテが当たり前だ、とか、病院の機能評価を取るのに電子カルテが望ましいみたいだ、とか、地域包括ケアをするのなら電子カルテでなければどうしようのない、という声も聞かれる。
 結局、政府厚労省が電子カルテ導入を政策面からも強力に進めているのである。なんでこのような政策をするのか、私にはさっぱり分からないのである。病院、医師は患者を治して「なんぼ」である。
 当たり前であるが電子カルテだろうが、紙カルテであろうが、そのようなことはどちらでも良いのではないだろうか。
 政府の方の中にはは電子カルテをメーカーに売らせて景気を良くしたい、と考える方もいらっしゃるようだ。隨分と邪な考え方であるが・・・・
 それもあって、政府は電子カルテを強力に推奨するのであろう。しかし、大局に立てば、むしろウイルスとは無縁なだけに紙カルテというものを見直しても良いのではないだろうか。
 同時に、紙カルテと比較して電子カルテの欠点というのも素な気持ちできちんと見つめないといけないと思う。
5. 控えめな結論
 少なくても、以下のことは言えるのではないか。
 ○電子カルテを使おうおが、紙カルテを使おうが医師の技量にはまったく関係がない。  ○電子カルテをなるべく早いうちに導入して使っていかないと、時代に乗り遅れてしまう、ということはまったくないであろう。紙カルテから電子カルテへの移行は難しいことである。じっくり考えて行いたいものである。

付記:4つの欠点を挙げたが、ITの猛者みたいな人はいるものである。紙の時より、電子カルテの方がはるかに早く記録ができ、ハードディスクの増設くらい自分で出来る、という方もおられた。
 ITは便利である。だからコストがかかるのは当たり前、と自信を持って語られている方もいた。そう言われると私は何も言えない。つまり、ITに強い方にとっては電子カルテは非常に良いもののようだ。
 だが、大多数の方は彼らほどITにお強くないようだ。
 呻吟しながら電子カルテに何とか慣れて、その中で電子カルテのメリットを見出しやっているようだ。しかし、対診時に紙カルテより早くは記録できないし、ハードディスクの増設も業者頼みのようである。